挨拶

この度、令和3年4月1付で第六代教授を拝命いたしました。

当教室は、初代今裕教授(のち総長)によって開講された病理学講座を前身としており、その歴史は大正10 年(1921年)に遡り、本年で100周年を迎えます。第二代武田勝男教授は日本で初めてがん免疫の研究を着手した研究者として非常に有名であります。その歴史ある教室での教授就任にあたり非常に身の引き締まる思いでおります。その伝統を継承しながら、そこに新たな視点や技術を加え、世界的な炎症・免疫とがん・組織再生・老化の研究を目指していきたいと考えております。

当研究室の研究テーマのひとつである炎症(特に慢性炎症)は多くの臓器において疾患の発症や進展に関与しております。炎症研究のキーワードは「炎症記憶」や「腫瘍惹起性炎症」であり、炎症に関連する現象や疾患を従来の病理学の中心であった形態学的手法に加え、空間的トランスクリプトーム解析やシングルセル解析、オルガノイド培養法、ゲノム編集法などの最新技術を積極的に活用して、常に新しい切り口で生物学的な意義を大切にしながら研究を展開してまいります。その研究成果を統合病理学教室から世界へと発信し、医学と医療の発展に貢献してまいります。

形態学や染色を中心とする病理学研究は分子生物学的手法の発展とともにやや時代に取り残された印象がありました。しかし、近年では空間的トランスクリプトミクス解析やバーコード技術を用いた多重免疫染色が盛んになってきており、組織上の細胞の相互関係の評価など病理学的な手法の重要性が再認識されてきており、病理学教室としての利点を活かし、積極的に上記のような最新技術の導入を行なっているところです。また病理業務においても古典的な病理診断法や病理解剖に加え、今後ゲノム医療実現のための分子病理診断(がん遺伝子パネル検査など)や人工知能(AI)による病理診断、遠隔病理診断などがますます重要になってきますので、最先端の病理診断法の開発においても統合病理学教室として貢献してまいります。

研究とともに、教育も当教室の非常に重要な任務です。上記のような研究や診断法に興味がある医師や学生の方々と一緒に当教室で未来の病理学研究と診断を切り拓いていきたいと考えております。大学院や学部学生時代によい研究成果を出すことはもちろん重要ですが、大学は学びの場であり、その時代に受けた教育により獲得した思考法や知識はその後の研究や臨床人生に大きな影響を与えます。当教室では、学位や論文に向けた研究指導に加えて、その後の臨床や研究に役に立つ正しい科学的な思考回路を身につけて欲しいと考えており、十分に時間を取って一緒に議論をしながら、自身の研究結果の考察やその結果をもとにした研究計画立案を行います。さらに幅広い研究技術や研究知識獲得の指導、原著・総説論文の執筆法や論文査読法の指導、英語教育、研究倫理教育などを含めた全人的な教育を大事にしています。そのために、毎週の研究ミーティングに加え、各分野の第一線の講師陣によるセミナーやがんや免疫の教科書の輪読会、最新論文の抄読会を積極的に開催しています。またWet研究に加え、重要性を増すDry研究の勉強会も開催し、自分でも基本的なDry解析ができる研究者を育成します。以上の教育を通して、将来的に研究や臨床でぶち当たる問題点を適切に解決できる世界的な研究者やリサーチマインドを持った臨床医の育成へとつなげていきます。

また近年全国的に病理医不足が問題となっており、次世代の病理医の養成も教室の非常に重要な任務です。そのためには、人体病理学と実験病理学の面白さを伝えて教室の門を叩く学生や医師を増やしていくことが重要であり、学部学生の興味を惹きつける教育(病理学講義・実習・演習)を行うことに加え、教室員と関連施設、同門会が一丸となって、さらに魅力ある統合病理学教室を目指して精進してまいります。

皆様には、今後ともご支援・ご鞭撻を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

令和3年4月1日
谷口 浩二

当研究室で研究をしたい、あるいは病理学に興味がある学部・修士学生(学部や国籍を問わず)や医師の方などは、気軽に当教室にご連絡ください。