お知らせ
2024年06月04日

9回統合病理学教室セミナーとして、ハーバード大学病理学教授荻野周史先生のセミナーを開催しました

ハーバード大学病理学教授の荻野周史先生にご講演いただきました。

荻野先生が確立した病理学と疫学を融合した分子病理疫学や「前向きコホート内でフォロー中に発生した腫瘍の組織のバイオバンク」を発明した話、現在増えている若年性がんから若手のキャリアデザインまで幅広い話をしてくださいました。

多数の若手や医学部生も参加してくれ、多くの質問をしてくれました。

荻野先生、本当にありがとうございました。

240604 荻野先生 セミナー

 

演者:ハーバード大学病理学教授・荻野周史先生

日時:6月4日(火)17時

場所:北大医学部学友会館 フラテホール



講演タイトル:微生物、免疫系、分子病理、環境を含めた学際的統合研究の進化と真価(+ キャリアデザインのヒントのおまけ)



講演要旨:この講演では癌研究を例としてとりあげるが、理論も研究手法も、他のあらゆる複雑系疾患研究にも応用できる。癌という複雑系多因子疾患をよりよく理解するため、私は分子生物学・病理学・免疫学・微生物学の手法を疫学・集団研究に統合した新分野の枠組みを開拓し、統計解析方法を改良・開発し、病因を探求してきた。その結果、生活習慣および環境因子、癌発生、癌細胞Omics 異常、大腸癌微小環境内微生物・免疫細胞との新たなリンクを次々に発見することができた。それらの発見を可能ならしめたのは、15万人を35年以上追跡した大規模集団調査を活用して、私が発明した「大規模前向きコホート内に発生した腫瘍のバイオバンク」で、これは現在でも世界的に稀な先駆的バイオバンクである。最近の話題として20ー40代に発生する若年性癌の増加現象が世界的な問題となっている。我々は世界の癌発生データを解析して最近30年のトレンドを調べ、多数の消化器系(食道、胃、膵臓、肝臓、胆道、胆嚢、大腸)の癌を含む12種類(残りは乳腺、子宮内膜、腎臓、頭頚部、骨髄の癌)の若年層における増加を発見し、初期の発達段階から成人まで続く病因因子暴露(食事、マイクロバイオーム、代謝異常、成育環境変化など)の重要性を示唆した(Ugai et al. Nature Reviews Clinical Oncology 2022)。我々は若年性大腸癌の病理学的特徴として免疫細胞浸潤の低下などを発見した。若年性癌増加の謎の解明にも統合科学の成果が待たれる。講演の最後には、出席者が自分の経験と興味を活用して、多種多様な事象に関心を持ち、独自性を育み、広く世界で活躍できるよう、キャリアデザインのヒントを提供する。



ご略歴

1993、東京大学医学部医学科卒。1994-1995、在沖縄米海軍病院インターン。1995―1999、病理学研修(Case Western Reserve Universityなど)。1999-2001、University of Pennsylvaniaにて分子病理学専門医研修・ポスドク研究。2001、東京大学大学院博士課程卒。2001―現在、Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital (BMH),Dana-Farber Cancer Institute(2019まで)にて病理学教職。2015―現在、Harvard Medical School(病理学)とHarvard T.H. Chan School of Public Health(疫学)教授。2016―現在、上記BWHの分子病理疫学部門長。2017―現在、Broad Institute of MIT and Harvardのメンバー。2023―現在、東京医科歯科大学の学術顧問。2022よりIUBMB名称標準化委員会会員。その他、FASEB傑出研究者賞選考委員、US NCI(米国立がん研究所)傑出研究者賞選考委員、ノーベル生理医学賞候補推薦者など歴任。米国立がん研究所の傑出研究者賞、など受賞歴多数。
参考文献
・Chan AT, Ogino S, Fuchs CS: Aspirin and the Risk of Colorectal Cancer in Relation to the Expression of COX-2. N Engl J Med 2007;356:2131-42.

(アスピリン服用の長期的影響としてPTGS2 (COX-2)発現陽性大腸癌の発生の抑制を発見した研究、「前向きコホート内に発生した腫瘍のバイオバンク」を活用した分子病理疫学最初の画期的な論文。現在に至るまで、同じ前向きデザインで他のグループによる研究ができていない唯一無二の成果である。)

・Ogino S, Galon J, Fuchs CS, Dranoff G: Cancer immunology-analysis of host and tumor factors for personalized medicine. Nat Rev Clin Oncol 2011;8:711-9.

・Liao X, Lochhead P, Nishihara R, Morikawa T, Kuchiba A, Yamauchi M, Imamura Y, Qian ZR, Baba Y, Shima K, Sun R, Nosho K, Meyerhardt JA, Giovannucci E, Fuchs CS, Chan AT, Ogino S.  Aspirin use, tumor PIK3CA mutation, and colorectal-cancer survival.  N Engl J Med 2012;367:1596-1606.

・Nishihara R, Wu K, Lochhead P, Morikawa T, Liao X, Qian ZR, Inamura K, Kim SA, Kuchiba A, Yamauchi M, Imamura Y, Willett WC, Rosner BA, Fuchs CS, Giovannucci E, Ogino S, Chan AT: Long-term Colorectal Cancer Incidence and Mortality after Lower Endoscopy. N Engl J Med 2013;369:1095-105.

・Song M, Nishihara R, Wang M, Chan AT, Qian ZR, Inamura K, Zhang X, Ng K, Kim SA, Mima K, Sukawa Y, Nosho K, Fuchs CS, Giovannucci EL, Wu K, Ogino S: Plasma 25-hydroxyvitamin D and colorectal cancer risk according to tumour immunity status. Gut 2016;65:296-304.

(ビタミンD不足の長期的影響として免疫細胞浸潤の多い大腸癌の発生の促進を発見した研究、「前向きコホート内に発生した腫瘍のバイオバンク」を活用した免疫分子病理疫学最初の論文。現在に至るまで、同じ前向きデザインで他のグループによる研究ができていない唯一無二の成果である。)

・Mehta RS, Nishihara R, Cao Y, Song M, Mima K, Qian ZR, Nowak JA, Kosumi K, Hamada T, Masugi Y, Bullman S, Drew DA, Kostic AD, Fung TT, Garrett WS, Huttenhower C, Wu K, Meyerhardt JA, Zhang X, Willett WC, Giovannucci EL, Fuchs CS, Chan AT, Ogino S: Association of Dietary Patterns With Risk of Colorectal Cancer Subtypes Classified by Fusobacterium Nucleatum in Tumor Tissue. JAMA Oncol 2017;3:921-7.

(食物繊維不足の悪い食習慣の長期的影響としてFusobacterium nucleatumが癌微小環境内に多い大腸癌の発生の促進を発見した研究、「前向きコホート内に発生した腫瘍のバイオバンク」を活用した微生物分子病理疫学最初の論文。現在に至るまで、同じ前向きデザインで他のグループによる研究ができていない唯一無二の成果である。)

・Ogino S, Nowak JA, Hamada T, Milner DA, Jr., Nishihara R: Insights into Pathogenic Interactions Among Environment, Host, and Tumor at the Crossroads of Molecular Pathology and Epidemiology. Annu Rev Pathol 2019;14:83-103.

・Akimoto N, Ugai T, Zhong R, Hamada T, Fujiyoshi K, Giannakis M, Wu K, Cao Y, Ng K, Ogino S: Rising incidence of early-onset colorectal cancer: a call to action. Nat Rev Clin Oncol 2021;18:230-43.

・Ugai T, Sasamoto N, Lee H, Ando M, Song M, Tamimi RM, Campbell PT, Giovannucci EL, Weiderpass E, Rebbeck TR, Ogino S: Is early-onset cancer an emerging global epidemic? Current evidence and future implications. Nat Rev Clin Oncol 2022;19:656-73.

・Tsai PC, Lee TH, Kuo KC, Su FY, Lee TL, Marostica E, Ugai T, Zhao M, Lau M, Väyrynen JP, Giannakis M, Takashima Y, Kahaki S, Wu K, Song M, Meyerhardt JA, Chan AT, Chiang JH, Nowak JA*, Ogino S*, Yu KH*.  Histopathology images predicted multi-omics aberrations and prognoses in colorectal cancer patients.  Nat Commun 2023;14:2102.